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ライン状2Dライダーの積雪深計への活用

積雪深モニタリングに関する現在の課題

除雪・排雪の作業は地域によって異なりますが、原則として積雪量10cm、道路によっては5cmや15cmなどを目安として出動しています。
予想積雪量が10cmを超える際の新雪除雪や、市民からの情報提供がある幹線道路や市街地であれば除雪作業や排雪作業の出動はシンプルになる傾向がありますが、幹線道路から外れた道路では現場の状態を把握する目が行き届きにくく、現地へのパトロール業務が大きな役割を果たしています。
しかし人手不足の課題を抱える除雪業務ではパトロール業務を全て賄うことは困難で、Webカメラなどと共に積雪深計を設置して遠隔地の除雪・排雪の判断に利用する情報を集めています。
ただ積雪路面の交通環境は降雪量だけで決まるものではなく、吹き抜ける風や雪を解かす気温や日射などの他気象条件が降り積もった雪の状態を変化させ、そしてその道路を通過するクルマの交通量によっても雪の状態が変化し路面状態が変わります。
結果として、積雪深計によるスポットでの測定結果はそのエリアを代表した値として判断できない場合もあり、パトロールを巡回し人の眼で最終確認を行う必要がでるような、本来の目的が達成できていないケースも発生しています。

このような課題を解決するのがライン状積雪深計です。

道路上の積雪深や轍ぼれの深さ、吹き溜まりの規模が一目瞭然!

2Dラインライダー:LL-60Aは、レーザーをシート状・扇状に広げて照射し、その反射物までの距離を測定するライン状のレーザー距離計になります。測定ポイントは256点あるので、考え方としてはレーザー式積雪深計を256式集めて1台にまとめたような製品になります。このシート状に広げた測定光を道路を横断する形で照射することで、スポット測定のレーザー式積雪深計では取得できない様々な情報が得られるようになります。

LL-60Aによる積雪路面測定イメージ

実際に自動車が通行する道路上の積雪深がわかる!

前述の通り、道路上の積雪深は降雪量のみで決まるのではなく、吹き寄せる風や日中の気温や日射、通過車両によって大きく変動します。結果としてスポット測定のレーザー式積雪深計では交通環境を実効的に代表できない場合も発生します。しかし、積雪深をライン状で把握することことによって、実際にクルマが通過する道路上の積雪深が測定出来、しかもそれを遠隔でモニタリングすることができるのです。

轍ぼれの度合いや深さも可視化ができる!

また実際の道路上の積雪深を横断的に測定できるということは、轍ぼれの形状や深さを測定することができ、路面整正の必要性の判断基準のデータも遠隔で取得することが可能になります。

吹き溜まりや道路脇に寄せた雪の状況も遠隔で監視!

道路の除雪をした後は道路わきに寄せた雪(雪堤)が通行するスペースを狭めたり、暴風雪により道路上に吹き溜まりが発生した場合には交通障害を引き起こす可能性があります。その場合にはロータリー除雪車を出動させ拡幅除雪を行ったり、併せてダンプトラックを並走させて運搬排雪を行う作業が想定されますが、その判断基準となるリアルタイムの吹き溜まりの状況や雪堤の状況が、ライン状積雪深計であれば遠隔でその状態把握をすることが可能になります。

またライン状積雪深計では吹き溜まりや雪堤の面積を測定することができるので、対象道路の距離を掛け合わせることで[雪堤の面積]×[長さ]=雪堤の体積を推定できる可能性もあります。吹き溜まりが発生しやすいホットスポットに常設し遠隔監視を行うことで、吹き溜まりに衝突してしまい立ち往生してしまう事故のリスクを低減できます。

さらにLL-60Aはシングルフォトン技術を活用しており連続観測が可能で、最大400Hzの高速測定により大雪時でも誤測定なく降り積もった雪までの距離を測定することができ、なによりソリッドステート方式で駆動部分が一切ない設計なので、氷点下環境下での機会駆動部品の凍結による欠測の心配がないことも、LL-60Aが積雪計測に向いている要素です。

解決策実装までの流れ

2Dラインライダー:LL-60Aをライン状積雪深計として使用する場合、本体から出力される測定結果はそのままでは使用できず、データを変換する必要があります。その変換の仕方をデモ動画での測定を例に説明いたします。

本体から出力される測定結果は、本体の位置を基準点として、そこから扇状に広がるレーザー光が物体に当たり反射されるまでの距離を256点で出力されています。このままではLL-60Aを設置した位置から道路上に積もっている雪の表面までの距離しか測れず、道路表面から鉛直方向に降り積もっている積雪深の情報は得られません。そこでライン状積雪深計として使用しているデモ動画の例では、LL-60Aを原点とした“極座標系”から、任意の水平面xと直交するyで表す“直交座標系”に変換をしています。

LL-60A測定原理解説イメージ

デモ動画の例では、下記の図の通り路側帯にセンサーを設置し、斜め45°の角度で積雪深のモニタリングを実施するように設計構築されています。

LL-60A設置イメージ

LL-60Aからの生データでは、センサーからの距離(r)とセンサー中心線からの角度(θ)が出力されます。
この極座標の(r,θ)を直交座標の(x,y)に変換する必要があります。

この直交座標(x,y)を極座標の(r,θ)を使って表すと、x=rcosθ,y=rsinθ が成立します。
しかしLL-60Aは斜め45°下向きの角度で設置されているので、y軸が道路を横断する面として、x軸を鉛直方向の積雪深として考えると、
道路横断する測定スポット=(センサーからの距離r)×sinθ
測定スポット上の積雪深 =(センサーからの距離r)×cosθ
となります。

この手法はセンサーを設置する「高さ」「測定角度」「道路の端の基準水平座標」これら3つの要素が重要となり、
設置箇所ごとに異なるパラメータ設定が必要になります。
デモ動画の例では、
高さ=500cm
角度=45°
としています。

LL-60Aは視野角が60°あるので、中心線からの角度(θ)の出力は-30°~+30°の値で変化します。
上記情報から、上記スケッチの歩道の縁石の端、点Tの(x,y)座標は下記のように求められます。

(センサーからの距離r)×sin(センサー設置角45°―中心線からの角度-30°=15°)
=134cm

となり、センサーを設置したポールから道路に向かって134cmのところに一番手前の観測位置点Tの座標成分が求められます。
反対にセンサー位置から最も遠い位置の観測点は、

(センサーからの距離r)×sin(センサー設置角45°―中心線からの角度+30°=75°)
=1866cm

となり、センサーを設置したポールから道路に向かって1866cmのところに一番遠い観測位置点の座標成分が求められます。

次にそれぞれの測定スポット上に堆積していく雪の積雪深に変換する場合には、下記のように求められます。

(センサーからの距離r)×cos(センサー設置角45°―中心線からの角度-30°=15°)
=近点Tの積雪深

LL-60Aでは一回の測定結果に中心線からの角度が異なる256点分の距離rが出力されますので、

(r1)×cos(θ1)
(r2)×cos(θ2)
(r3)×cos(θ3)
(r4)×cos(θ4)
(r5)×cos(θ5)

(センサーからの距離r256)×cos(センサー設置角45°―中心線からの角度+30°(θ256)=75°)
=遠点の積雪深

上記のように256計測点分の計算をしていきます。

実際に設置する場合には、設置場所によって「設置高度」と「設置角度」が変わり、またそれによって測定エリアもかわるので、それらを固定値パラメータとして扱いながら、どこのセンサー出力値が道路のどこの位置を表しているのか適切に管理していく必要があります。

このような計測を10分おきなど定時的に行い、データを保存時していきます。
道路上に雪が積もる前、夏場の路面との高さと比較することで、最終的な道路上の積雪深を求めることが可能になります。

LL-60A測定結果UI

デモ動画の画面では、画面下部にLL-60Aの測定結果を直交座標に変換した結果が表示されています。降雪前の舗装路面の高さを観測した結果が緑色のグラフで表されており、現在の降雪中の10分おきの積雪深の変化が青色のグラフで表されています。
青色のグラフの高さから緑色のグラフの高さ成分を差し引くことで、積雪深をcmで測定できます。

測定精度はこの時の設置高度であれば3mm程度の精度で積雪深を測定することができます。

このデモ動画の画面では、グラフの右側に雪堤が成長していく過程が観測されています。
雪堤、または吹き溜まりの底辺の長さと、その高さをcm単位で取得できるので、掛け合わせることで雪堤の面積を求めることができます。

求めた面積を道路の延伸方向の距離と掛け合わせることで、雪堤の体積を求めることができます。
雪堤の形が同じ形として続いていることはあまり考えられないので、この体積の情報はあくまで参考値になりますが、設置場所や用途によっては役立つ情報になる可能性があります。

2Dラインライダーのライン状積雪深計への活用に関するまとめ

  • パトロールの目が行き届きにくい道路ではセンサーによる遠隔モニタリングが人手不足対策には有効
  • スポット計測のレーザー式積雪深計では道路上の雪の轍ぼれや吹き溜まりなどを観測することは難しい
  • ライン状積雪深計では道路を横断する格好で256点の積雪深が測定でき、轍ぼれの深さや吹き溜まりの成長度合い、その切断面積が可視化することができ、現地に人を派遣せずに遠隔で情報が取得できる

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