技術情報TECHNICAL INFORMATION
ハイパースペクトルカメラ ~芸術作品・文化財~
ハイパースペクトルカメラは、文化遺産、絵画、工芸品、歴史的文書の分析や、偽造文書の検査などに使用されています。
どのようなデータが取れるのか、どのように見えるのか、いくつかの例を紹介します。
・印刷物の測定
・偽造文書の測定
最初の画像では「05898(塗りつぶし)」と見えていますが、ハイパースペクトルカメラで分析していくと、「irsystem」と書いてあったことがわかります。この様に、変造された文字の発見、インクの種類や黒塗りされた文字の判別も可能です。
・絵画(油絵)の測定
左上は、油絵の可視画像です。左下は、その油絵の様々な場所のスペクトルです。任意の場所のスペクトルを比較して表示できます。
その他の4枚が、ハイパースペクトルカメラで撮影した画像です。波長によって見え方が変わるので、肉眼(左上の画像)ではわかりにくい違い、絵の具の違いや下塗りなども見えてきます。
この様に絵画を測定することで、材質成分の分析や経年変化を推定することができ、その絵画の分析・評価や修繕に役立てることができます。
光をRGBよりも細かく分ける分光。分光して得られるデータは物質ごとに特有の値を示す為、人間の目では同じに見える物の違いを見分けられることがあります。カメラと同じように画像が撮影出来て、分光も行える装置。それがハイパースペクトラル イメージングシステムです。つまり、測定した物に含まれる物質や成分の空間的な分布を判別することができます。
そのハイパースペクトルイメージングは、ここ30年ほどの間に、リモートセンシング、食品・農産物評価、法医学等の様々な用途でスマートな分析手段として発展を遂げています。文化遺産、また考古学関連のコミュニティでは、20年ほど前から歴史的文書、芸術作品、彫刻やレリーフの検査にハイパースペクトルイメージングが採用されています。
基本的なハイパースペクトルの技法は、材質成分やその空間的分布を特定することができる分光特性の空間的なマップを作ることです。このマップデータは、工芸品・文化遺物の物質に一切触れることなく、光学的な方式で作成されます。このような特性により、ハイパースペクトルイメージングは歴史的文書や芸術作品の評価において、重要な分析手段の一つとなりました。何故なら、波長特性は物質の「指紋」であり、それ故にスペクトルイメージングは歴史的工芸品の光学特性の変化を検知、測定及び可視化することにおいて、高度に定量的で、繊細なアプローチとして発展してきたためです。光学的な分光計測、特にハイパースペクトルイメージングは、非破壊、非接触なだけでなく、リアルタイムで同時に複数のパラメーターを測定することのできる為、このフィールドにおいて大きな成功を収めています。
大きさ、形状、色、表面の質感であれば、カラーカメラを用いた従来のマシンビジョンで計測することができます。さらにハイパースペクトルイメージングを用いることにより、芸術作品中の化学組成、人間の目では検出できないレベルでの経年劣化や成分の変化などの他の要素の推定を、測定結果から導き出すことができます。
ClydeHSI社製品は、絵画、3次元物体などの大型の芸術構造物や文書において、ロバスト性、信頼性、正確性、そして再現性に優れたハイパースペクトル計測を可能にする完成されたエンドツーエンドソリューションとしてデザインされています。システムは、スペクトルカメラを含むハードウェアと、データ取得、表示、分析を行う専用のソフトウェアからなるハイパースペクトル計測の完全なターンキーソリューションです。
4種のスキャニングユニット、及び5種のスペクトルカメラが選択可能です。スキャナには、三脚やテーブルの上に素早くセットアップすることができるものや、広範囲の高解像度スペクトル画像を数秒で取得できるものがあります。全てのスキャナは最大2台までのスペクトルカメラを搭載可能で、VNIR、NIR、SWIRなどの異なる波長範囲を同時にカバーすることができます。各スペクトルカメラには選択したスキャナに応じた専用レンズが附属します。
使いやすさと素早いデータ取得は、ClydeHSI社製システムの最も重要な特徴です。スペクトルイメージングや、そのセッティングを用いれば、リアルタイムプロセスモニタリングも簡単に実現できます。
・主要機能及び特長
機能 |
特長 |
高感度で広波長範囲をカバーする ハイパースペクトルカメラの選択肢: ・VNIR:400~1000nm ・NIR:900~1700nm ・SWIR:900~2500nm |
測定対象の色情報及び化学組成情報を測定できます。 用途や測定対象によって、最適なスペクトルカメラを最小限の費用で効率よく配備することができます。 現時点で必要な波長のカメラのみ購入し、後から他の波長のカメラの追加購入も可能なモジュール方式のシステムです。 |
測定対象物上でのピクセルサイズが 同じになる光学系 |
複数の測定データを融合する際に、幾何補正が最小限で済みます。 |
RGBカメラオプション |
通常のカラー画像を取得することにより、測定箇所の選択が簡単に行えます。また、スペクトルデータとカラー画像を融合することも可能です。 |
低照度で撮影可能 |
装置が高感度な為、高解像度の計測においても、弱い照明でもサンプルからの反射光を十分に得られます。つまり、調査中の美術品や文書への光の照射を最小限に抑えることができます。 |
高精度でロバスト性の高い スキャナシステム |
高精度の広範囲スキャナは、2m x 2m以上もの範囲に対して容易にマクロスキャンを行える分解能を備えています。 |
撮影距離の自動測定 |
巻き尺などでカメラから測定対象物への距離を測定する必要はありません。計測中に自動で距離を測定し、分析結果の空間的なマップを作成します。 |
リファレンスマークと基準反射板(白/黒) |
基準となるリファレンスマークによって、撮影エリア全体の幾何的評価を行うことができます。 基準反射板(白/黒)を用いることで、自動で反射率の計算や露光時間の調整を行えます。 |
データ取得・分析をカバーする 専用ソフトウェア |
先進的なデータ取得、分析を行うソフトウェアが装置に付属します。ClydeHSI社は、ユーザへの納入後もシステム全体の運用をサポートし続けます。 |
・スキャナ概要
タイプ |
説明 |
回転型 |
大型の測定対象物に対するハイパースペクトルイメージングデータの高速取得が可能で、簡単に三脚に設置することができます。 |
デスクトップ型 |
A3、A4サイズの文書向け高精度スキャナで、フォーカスマークへの自動位置調整と、基準反射板(白)による反射度合補正を含みます。25µm解像度でのマクロスキャンが可能です。 |
広範囲型(絵画用) |
2.2m x 2.2mまでのエリアを25µm解像度で全範囲にわたりマクロスキャンすることができます。 撮影距離の自動測定機能、形状トラッキング機能、撮影距離の自動補正機能を搭載しています。 |
ロボットアーム型 |
複雑な形状の測定対象物はこのロボットアーム型スキャナにより2次元的、または3次元的にスキャンすることができます。高度な空間位置精度と再現性を備えたスキャンデータを取得することが可能です。この3Dハイパースペクトルオプションは最大2つのVNIRカメラ、またはNIRカメラと共に使用することができます。 |
回転型スキャナは、他のスキャナと組み合わせるのは難しい望遠レンズやUVハイパースペクトルカメラを用いて、広範囲の景色を撮影する場合に理想的なソリューションです。位置基準センサを搭載しており、「ゼロ」の基準点から水平、垂直両方向にスキャンすることができます。そしてVNIRカメラとSWIRカメラのデュアルシステムを含む全てのハイパースペクトルカメラと組み合わせる構成が可能です。
スキャナはコンパクトで、素早く簡単にセットアップすることができ、通常測定が困難な場所でも活躍します。
FOV(カメラの視野)とIFOV(1ピクセルの視野)は使用中のレンズに合わせて自動的に算出され、これにより、常に均一で正方形のピクセルで撮影できるよう、スキャナを適切な回転スキャンスピードに調整することができます。
仕様 |
単位 |
備考 |
|
回転範囲 | 360 | Deg | 無制限全体回転、指定角度間でのスキャン、前後双方向動作、高精度位置基準センサ(基準点=0°) |
角度分解能 |
≤ 0.005 |
Deg |
– |
スキャン速度 |
≤ 25 |
Deg/s |
より高速でのスキャンをご希望の場合はご相談ください |
動作 |
垂直方向 または 水平方向 |
– |
カメラ用アダプター、ステージ用マウントが供給可能です |
マウント |
3/8” 及び1/4” |
– |
標準規格のカメラマウントで使用する全ての三脚システムに適合 |
インターフェイス |
USB2.0 |
– |
|
電源 |
24V DC, 2.5A |
– |
A4、A3サイズの文書のスキャンに最適です。1台のスペクトルカメラではもちろん、2台を組み合わせて400~2500 nmに渡る波長範囲で撮影することもできます。スキャナは、IFOV(1ピクセルの視野)を確認するセンサ付きで高精度で高さ調節可能な、カメラを支える頑丈なアームを搭載しています。文書や書籍、絵画やその他のサンプルを固定できるホルダー及び、反射率自動確認用の基準反射板(白)とフォーカス確認用のターゲットも付属します。
仕様 |
単位 |
||
スキャナモデル | A4 | A3 | – |
スキャン範囲 |
250 x 300 |
300 x 500 |
mm2 |
スキャナ部奥行き |
400 |
600 |
mm |
スキャン速度(@100lfps) ※空間分解能に依存 |
5mm/s (50um分解能時) 50mm/s (500um分解能時) |
– | |
スキャナ部高さ |
550 |
mm |
|
スキャナ部幅 |
750 |
1200 |
mm |
インターフェイス |
USB2.0 |
– |
|
電源 |
90 to 260 (50/60) |
V AC (Hz) |
美術品などの測定対象を高度に安定し、常に高精度でスキャンできるシステムです。5μm刻みでスキャンを行うことが可能で、マクロモードでは25μmの空間分解能の撮影ができます。ClydeHSI社のユニークな表面曲率形状モニター・補正システムにより、測定対象の形状が変化しても、全スキャンエリアに渡って均一なフォーカスと撮影スポットサイズを維持できます。
仕様 |
単位 |
||
スキャン動作方向 | X, Y, Zs, and Zm | – | |
最大スキャン範囲(X-Y) |
2,200 x 2,200 |
mm2 |
|
最大画素数 |
88,000 x 88,000 |
pixels |
|
スキャンステップ幅 |
5 |
µm | |
空間分解能 |
≧25 |
µm |
|
X-Y ポジションフィードバック |
エンドコード処理 |
– |
|
Zs, 撮影距離 |
0 to 3,000 |
mm |
|
Zs, 撮影距離ステップ幅 |
0.5 |
mm |
|
撮影距離計測用レーザ距離計 |
2 |
– |
|
Zm, マクロステージ調整幅 |
± 75 |
mm |
|
Zm, マクロステージ分解能 |
0.5 |
mm |
|
Zm 制御 |
リアルタイム撮影距離計測及び測定対象表湾曲に対する自動距離調整システム |
– |
|
搭載カメラ重量 |
≦50 |
kg |
|
搭載カメラ |
スペクトラルカメラ(VNIR、NIR、SWIR)、観測用カラーカメラ |
– |
Zmマクロステージ(撮影距離調節)
絵画の測定上共通して問題となることは、絵の具の厚み等により表面が平らではないため、撮影距離の変動が生じてしまうことです。特にマクロ撮影においては、これが無視できない影響となります。例えば、どのような画角での測定であっても、測定スポットの大きさは測定対象とカメラの距離に応じて変化してしまいます。また、被写界深度が足りずにフォーカスが合わなくなってしまいます。その為、測定システムで補正することが重要となります。
そこで、ClydeHSI社では非常に低出力で高精度のレーザ距離計で対象物の表面形状を測定しています。それに応じて、Zmマクロステージが測定対象の形状に合わせてリアルタイムで撮影距離を調整します。この機能により、測定対象物に常にフォーカスし、一定のスポットサイズで計測できるだけでなく、対象物の表面の形状地図を作成することができます。
レーザ距離計(撮影距離測定)
仕様 | 単位 | 絵画表面(解説図) | |
精度 | ± 0.5 | mm | |
再現性 | ± 0.3 | mm | |
測定範囲 | 0.05 to 50 | m | |
最速測定速度 | 50 | Hz | |
高精度のレーザ距離計による暫定最適距離(レッドライン)の設定で、スキャン時フォーカス、スポットサイズ維持をサポートします。 |
対象美術品への適切で安定した照射は測定成功への絶対条件です。光源において目指すべきことは、測定に必要な波長範囲をカバーすることはもちろん、可能な限り低照度を保ちながら撮影時のカメラでのSN比を可能な限り良いものにすることです。
仕様 |
単位 |
||
種類 | クオーツ タングステン ハロゲン |
– |
|
色温度 | 4700 | K | |
波長範囲 | 350~3000 | nm | |
消費電力 | 50 | W/bulb | |
スタビリティ |
DC, PSU(安定化電源) |
– | |
照射エリア | 調整可能 | – | |
角度 | 調整可能 | – | |
冷却 | 空冷 | – |
その他 |
||
ターゲット参照 | 校正ファイル : 分光、放射量、サンプル | |
スペクトル及びスペクトル特性データベース(ユーザが設定) | 幾何補正及びアラインメント | |
総合的なデータや画像のエクスポート機能 | 高解像フォトグラメトリやイメージモデルのインポート | |
マルチトラック測定 | トラックへのモザイクフュージョン | |
ROI選定のステージ移動 |
ROI処理選択及び解析 |
|
アラインメント用基準点 | 大型白色タイルによる補正 | |
波長補正用ターゲット(VNIR、SWIR領域用) | 光量補正用ターゲット(グレースケール) | |
スペクトル特性マッピング | 400Mpix画素カメラ(オプション機能) | |
空間分布のダウンサンプリング(オプション) | AI、機械学習プラグインモジュール | |
AI、機械学習及び信号解析に対するClydeHSI技術者によるサポート |